言葉だけで演奏技術を伝えきるのは限界もあり難しい事ではありますが、言葉は時として威力を発揮します。例えば…
「そっと優しく扇を持った手で日本舞踊を舞っているかのように(手全体を)漂わせて」
「キィをタッチした指先が袖の中へおはじきを手前に滑り込ませるように」
「キィの真ん中にとまっている小バエを瞬間捕獲するみたいに。(但し、殺してしまわないでね)」
「全てのキィは湖面に浮いてる一寸法師の小舟(か笹舟)。それらを指先で手前に手繰り寄せるイメージで」
「(手全体が)小さな素敵な急須かポットになったのをイメージして。音を出す時は前傾しながら指先が注ぎ口になってキィ(湯呑みかカップ)に注ぐように」
「大きな鷲か鷹が天空の高いところからゆっくり見下ろしながら旋回してるような気分で」
これらはほんの一例ですが私がレッスンでよく使う表現です。
こんなことを喋りながらもちろん手取り足取りコツを伝えていきます。
チェンバロにも良いですがこれは最初、良い音がなかなか出てくれないクラヴィコードなどには特に効果的です。
あっという間に見違えるような音になり、手の形もまるで変わってきます。
はっきり断言できますが、クラヴィコードから美しい響きを紡ぎ出すには相当なイマジネーションの力と、響かせるのに不可欠な「手のフォルム」が絶対に必要なのです。
手のフォルムが変わると響きや指使いなどさまざまなものが変わりますが、何より、感動的な表現を身をもって知ることで音楽的希求のレベルが今まで気付かなかった細部にまで広がり、自分の中でどんどん向上していくのです。
クラヴィコードでパツパツっというどうにもあのどうにも避けたい音になってしまって、弾いてるご本人も諦めてしまっているのか気付いていないのか、お構いなしに弾いてるような演奏を時々見かけることがあります。
そうした状況を何とか改善、一音たりともとまでは言わないまでも不快な「パツパツ音」を激減させたいと常日頃思うところです。