「バッハのインヴェンションは最初から順番にやるべき?」

16年、チェンバロやピアノを教えてきましたが、ピアノを習っている多くの人々、そしてピアノの先生もバロックや古典派を弾く上で困難さを感じている様子を非常に感じています。とりわけバッハを。

それは何故か?
日本のピアノ教育においてバッハに初めて取り組む際、多くの場合は「インヴェンションとシンフォニア」のインヴェンション第1番からスタートします。
またはその前に「導入」として「プレ・インヴェンション」や「小プレリュード」、「アンナ・マグダレーナの音楽帳」などをされてる方もいるでしょう。

私はインヴェンションを初めて弾く時は3拍子系の3番や4番から始めると良いと思います。
バッハの生きた時代はまさに「舞踏の世紀」。メヌエットやパスピエ、クーラント、サラバンドなど3拍子の舞曲が沢山作られ、踊られていました。
「踊る」という行為は古今東西問わず、地球上のあらゆる人種が生きるエネルギーをそこに見出し表現してきた「本能」であり、まずは比較的ノリやすいリズミカルな3拍子の曲で「無心に楽しむ」ことこそがバッハを好きになって上達を図るカギだと思っています。
1番の4拍子のハ長調は大変清澄な曲で、バッハというものに取り組む者にとって良い意味で「心地よい緊張感」に包んでくれる雰囲気をたたえていて、素晴らしいのですが。1番はフレージングと運指を考えた場合、ノリでは弾けなく、さらに解釈版などの楽譜に時折間違って書かれているスラーや音楽的に疑問な運指が、弾く人からバッハの本来の「弾きやすさ」を奪ってしまっているようにさえ感じてしまいます。

まず3番か4番で3拍子の生き生きとしたリズムに乗って意気揚々に弾けたら、活気に満ちた弦楽合奏のような8番、同じく明るく活発なジーグのような10番、ここまで長調がほとんどだったのでそろそろ短調が弾きたくなったところで哀愁に満ちた歌曲のような7番を弾いてみる。

こうしてインヴェンションがある程度進んだらぜひ組曲などから優しいメヌエットなどを与えてあげて下さい。
例えばパルティータ第1番のメヌエット。フランス組曲第3番のメヌエット。イギリス組曲第2番のブーレ、イギリス組曲第6番のガヴォット…
発表会で弾いても皆んなが注目すること間違い無しの名曲ばかり。

『こんなにいくつもある素敵な曲を弾くために「インヴェンション」、明日から頑張って弾こう!』
って生徒が思ってくれたら、教師にとってこれほどの冥利はありません。

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